性格診断の相性欄を見て「この人とは合わないタイプらしい」と納得しても、仕事は続きます。現実の職場では、相性の良い人だけと働くことはできません。この記事で扱うのは、苦手な相手を好きになる方法ではなく、好きにならないまま、仕事を成立させる技術です。感情の問題と業務の問題を切り分けて考えます。
まず整理しておきたいのは、相性が悪いというのは、どちらかが劣っているという意味ではないということです。多くの場合、相性の摩擦は次のような優先順位の違いから生まれています。
| あなたが重視するもの | 相手が重視するもの | 起きる摩擦 |
|---|---|---|
| スピード | 正確さ | 「遅い」対「雑」 |
| 調和 | 率直さ | 「きつい」対「言わなすぎ」 |
| 手順の遵守 | 柔軟な対応 | 「融通がきかない」対「勝手」 |
| 全体最適 | 目の前の顧客 | 「現場を見てない」対「視野が狭い」 |
この表を見ると分かる通り、どちらも仕事上は必要な価値観です。相手が間違っているのではなく、あなたが持っていない優先順位を、相手が担当しているという見方もできます。この視点に立てるかどうかで、その後の打ち手がまったく変わります。
苦手な相手にストレスを感じる大きな要因は、「普通こうするだろう」という無自覚な期待が裏切られ続けることです。この期待を、あらかじめ調整しておきます。
たとえば報告が遅い相手に対して、「言わなくても報告してくれるはず」という期待を持ち続けると、毎回ストレスになります。そうではなく「この人は聞かれれば答えるが、自発的な報告は期待できない」と設定し直す。すると、こちらから聞きにいくという淡々とした運用に切り替わり、感情が動かなくなります。
これは相手を諦めることではなく、使えるエネルギーを再配分することです。変わらない相手に期待し続けるのは、単純に高コストです。
口頭でのやり取りは、認識のズレが起きやすく、後から確認もできません。相性の悪い相手とは、意図的に文字で残るチャネルにやり取りを寄せると、摩擦が大きく減ります。
これは相手を疑うためではなく、解釈の幅を狭めるための作業です。相性が良い相手なら曖昧でも通じますが、様式が違う相手には通じません。だから明示する。それだけの話です。
同じ依頼でも、相手が反応する言葉は違います。ここは前回のコラム(職場の伝え方)と重なりますが、苦手な相手ほど効果が大きい部分です。
成果を重視する人へ:「これが片付くと、来月の数字が読めるようになります」
正確さを重視する人へ:「判断基準はこの3点です。抜けがないか見てもらえますか」
人への影響を重視する人へ:「これが遅れると後工程のメンバーが休日対応になってしまいます」
自由度を重視する人へ:「やり方はお任せします。期限だけ守っていただければ」
媚びる必要はありません。ただ、伝わる形に翻訳するだけです。翻訳は、こちらが有利になるための技術です。
苦手な相手と関係を良くしようとして、無理に接触を増やすと、たいてい逆効果になります。有効なのは量ではなく接触の設計です。
ここまでの技術は、あくまで自分でできる範囲の話です。しかし、次のような場合は個人の工夫では解決しません。
これらは相性の問題ではなく、職場環境の問題です。この段階では、上長への相談、業務分担の変更、配置転換といった構造を変える動きが必要です。個人の努力で耐えることを美徳にしないでください。工夫の対象と、環境を変えるべき問題は、はっきり区別する必要があります。
最後に、逆の話も書いておきます。相性の良い相手ばかりで固めたチームは、居心地は良いのですが視点が偏ります。全員がスピードを重視すれば品質のチェックが甘くなり、全員が慎重なら決定が遅れます。
その意味で、相性の悪い相手は、あなたのチームに欠けていた視点を持ち込んでくれる存在でもあります。摩擦の全部がコストではなく、一部は必要な機能だと考えると、苦手意識は少し軽くなるはずです。
相性が悪い相手と働くコツは、好きになろうと努力しないことです。期待値を調整し、記録に残し、相手に通じる言葉で依頼し、接点を設計する。この4つで、たいていの業務は回ります。そして、それでも回らないときは、我慢ではなく環境を変える段階だと判断してください。